2024.10.17
第1回
株式会社⽇光電機 / 代表取締役 佐藤陽⼦⽒
ひかりの絶えない街

防災意識を⾼めた社員の被災
「府中で生まれ、幼稚園小学校も地元に通いました。府中が大好きなんです。だからこそ、いつまでも笑顔が絶えない府中であってほしいんです」
と語るのは、株式会社⽇光電機の佐藤陽⼦社⻑。2018年に祖⽗の代から続く電気設備⼯事会社を引き継いで以来、地元の公共施設や病院、大國魂神社の電気設備⼯事にも携わってきた。
佐藤さんはいま、府中の防災に⼼を砕いている。
⾃然災害⼤国、⽇本。府中では、台⾵や線状降⽔帯などの影響で豪⾬になると、多摩川の氾濫や⼟砂崩れ、家屋の浸⽔や冠⽔の危険性が⾼まる。
2019年10⽉、台⾵19号に伴う記録的な⼤⾬は記憶に新しい。市政上、初めて避難勧告(現在は避難勧告に⼀本化)が発令され、多摩川流域に暮らす多くの住⺠が、学校の体育館や公⺠館に開設された避難所に⾝を寄せ、眠れない夜を過ごした。
公表された被害は、床上、床下浸⽔が各1件ずつと、わずかに⾒えるが、数字には表れない被害があった。
「当社の社員が、秋川の川沿いに住んでおり、氾濫で1m以上浸水しました。⼀時的に窓をふさぐために、べニア板を⽤意、家を乾かすためのストーブや当面簡単に食べられるものを届けたりしました。被災した社員家族は⾼齢だったこともあり、本当に⼤変そうでした」
佐藤さんは、その様⼦に胸を痛めると同時に、⾃社の備えへの強い危機感を抱いたという。

「私たちは電気というインフラを支える企業です。災害時に私たちが⽴ちすくんでいたら、街に電気が戻らないんです。被災してもいち早く⽴ち上がらなければなりません。でも、当社はそのための備えをしていなかった。こんなことでいいの? という思いが湧いてきて、できることはないか、探し始めました」
調べると、社屋は重量鉄⾻造で、耐震性には問題がなかった。そこで、被災しても当座をしのげるようにと、社内に7⽇分の飲料⽔と、約10⽇分の災害⽤トイレとトイレ⽤のテント1張りを⽤意。パソコン類や家具類は倒れないように固定し、データ類は知⼈のサーバにバックアップを保管するようにした。また、⼯事現場に出ている社員も多いため、社⽤⾞の中に、3回分の携帯トイレと飲料⽔、アルファ⽶、電池、ウェットティッシュ、防寒⽤のポンチョを⼊れた防災バッグを積んだ。


安⼼して暮らせる強い街をつくりたい
今後は、電気設備⼯事会社だからこそできる地域貢献にも⼒を⼊れたいと語る。
「仕事柄、⼯事⽤の発電機をいくつか持っているので、停電の際に、空いているものがあれば携帯電話の充電などにご利⽤いただきたいと思っています。万が⼀のときのためだけに、発電機を企業やご家庭ごとに備えるよりはるかに効率的ですから」
さらに地元企業が得意分野を持ち寄って連携することで、強固な防災体制を築きたい、と構想を語る。
「地域に根差している企業の99パーセントが中⼩企業。防災対策を⾃社だけで⾏うのはおそらく難しいはずです。ですから、地域企業同⼠が、姉妹都市ならぬ姉妹企業のような関係を結び、もしものときに助け合えるような状態をつくれないか、と考えています。地域内ではもちろん、もっと広げて市区町村や都道府県をまたいでもいいですよね。まさかのときに相談したり、頼れたりする企業が全国にあれば⼼強いですし、もっと安⼼して暮らすこともできるはず。そのためにどうすればいいか、頭をひねっているところです」
安⼼して暮らせる、強い街づくりの重要性に気づき、思いを形にするべく積極的に動いている佐藤さん。佐藤さんを突き動かしているのは、企業経営と⼦育ての経験だ。
「電気も経営もまったくの素⼈だった私が、⼦育てと両⽴しながらなんとかやってこられたのは、⻘年会議所の経営者仲間や、⼦どもたちが通う保育所や学校をはじめとした地域の皆さんとのつながりがあったからです。安⼼して⼦育てをしながら働き、暮らせることがどれほど⼤切か、⾝に染みているからこそ、私ができることで地域に貢献し、府中を⼦どもたちが笑顔で暮らせる街にしたいと⼼から思っています」
佐藤さんが描く府中のミライは、たくさんの笑顔とひかりに満ちている。



プロフィール
佐藤陽⼦⽒(さとう ようこ)
株式会社⽇光電機代表取締役。前職で⼦育てと仕事の両⽴に悩んだことがきっかけで、2017年に事務員として家業である⽇光電機に⼊社。「テレビの配線すらやったことがなかった」が、後継者がおらず廃業の可能性があったことから、代表取締役を継ぐことを決意し4代⽬となる。就任以来、テレワークやリモートワークを導⼊して働き⽅改⾰を進めたり、SNSを活⽤するなど新しいことにも挑戦。社員数も増え、業績も着実に伸ばしている。

株式会社⽇光電機(にっこうでんき)
株式会社⽇本製鋼所で電気関連の事業を担当していた佐藤氏の祖父が、1969(昭和44)年、工場内の電気保守や計装等を行うために設立。
「地域を輝き続ける太陽のような明かりを灯す会社でありたい」との思いから、社名を「⽇光」とする。⽇本製鋼所の撤退とともに取引先を外部に拡⼤。
現在は、電気、消防、通信、空調の各設備⼯事を⼿がけている。府中市、東京都、防衛庁、JRA東京競⾺場、住宅供給公社などの実績多数。
ライター
岩田 正恵・藤田 覚/futuretune